JCFIA速報

2008.10.24 産構審商取分科会、不招請勧誘など議論

報告書は事務局に一任
 
 
経済産業省と農林水産省は10月15日に今年第5回目となる産業構造審議会商品取引所分科会(分科会長=尾崎安央早稲田大学大学院法務研究科教授)を開催、前回に引き続き国内商品先物市場の「プロ市場化の推進と委託者トラブルの解消」をテーマに話し合った。プロ市場化とそれに伴う商品取引員のビジネスモデル転換は、「(商品先物)業界も含め共通の認識」(尾崎分科会長)として醸成されつつある。しかし不招請勧誘禁止の導入を含む行為規制強化では、是が非でも押し通したい消費者側代表と、ヘッジ機能の発揮をも危うくしかねないほどの流動性低下を懸念し市場振興の優先を提唱する商品先物業界側代表の意見が対立。この根本的な思想のくい違いは商品取引仲介業(IB)制度の創設、ラップ口座の実現などほぼすべての議題に反映され、意見の一致を妨げる結果となった。結局、尾崎分科会長は対立する議論の収束を避けて報告書への記載は事務局への一任を求めたが、さらに異論があれば改めて議論することとした。

商品先物市場を経済インフラと認めた上で、国内市場の国際的競争力を強化しアジアの中核市場に育成するという大局的な考えでは、消費者側委員も市場関係者側委員も一致している。しかし現行の個人投資家主体の市場構造では、目前にある流動性の著しい欠如という現実とあわせ、目標の達成は困難と考えられる。このためプロのリスクヘッジャーやリスクテイカーの参加を促進し、ゆくゆくはそうしたプロ中心の市場構造に転換する。プロの参加促進では、現行、プロ・アマ関係なく一律に適用される適合性原則の運用等を見直し、営業側の行為規制で強弱の差を設けることもありうる(いわゆる「プロ・アマ規制問題」)。ついては商品先物業界は、現行の個人投資家中心のビジネスモデルを転換すべきではないか――。これが尾崎分科会長の指摘する「共通の認識」だ。

●不招請勧誘禁止は投資家の情報アクセスを制約
だがその先の各論で大きな隔たりが生じるのは、個人投資家の位置づけで意見の食い違いが埋まらないためだ。
消費者側は、個人投資家の市場参入は、あくまでも投資家の主体的行動に限るべきとの立場を崩さない。つまり「自ら望む人だけが(取引に)入っていける市場にすべき」(大河内美保委員=主婦連合副会長)と、不招請勧誘禁止の導入を主張する。
もちろん出来高の低迷に伴う産業インフラ機能の低下を危惧する市場関係者としては、さらなる規制強化につながる不招請勧誘禁止は断固阻止したい。このままでは「国内商品先物市場という形態がなくなってしまう」(多々良實夫委員=日本商品取引委託者保護基金会長)との強い危機感がある。
しかし消費者側委員は、かつて不招請勧誘を禁止されていた「くりっく365の繁栄」(津谷裕貴委員=日本弁護士連合会消費者問題対策委員会委員)と、いまだに不招請勧誘禁止が継続されているOTC・FX取引を引き合いに、不招請勧誘禁止そのものが「業界を潰してしまうことにはならない」と主張。不招請勧誘の禁止で維持が危ぶまれる市場ならば「やめてしまえと言いたい」と言い募る。
また大河内美保委員は、商品先物業界が「生まれ変わるという姿勢を見せるため」に、唯根妙子委員(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会常任理事)は「効果的なイメージアップのため」に不招請勧誘禁止の導入を主張するが、その根底にあるのは商品先物市場に「消費者を巻き込んでしまうおそれがある」(唯根妙子委員)との考えからだ。
 これに対して商品先物業界側からは、まず渡辺好明委員(東京穀物商品取引所理事長)が「いま急がれる対策は市場振興。規制はいったん立ち止まって足元を固めるべき」と不招請勧誘禁止の導入に「断固反対」を表明した。同委員が根拠として挙げたのは、@数次にわたる政府の規制強化と自主規制による業界の急速な体質改善の進行、A不招請勧誘を禁止した場合に予見される投資家の情報アクセス機会の減少、B許可業種たる商品取引員が関与する取引の透明性と公正性――など。特にAの情報アクセスについては、アクセスのルートが多様であればあるほど個人投資家は選択の余地を広げられ、結果として「投資リテラシーを向上させることができる」と説明。「その機会を奪うがごとき制度改正は適切ではないし不必要」だと強く述べた。

●「不招請勧誘禁止の導入議論」の要件を満たしていない
 次いで日本商品先物取引協会会長の荒井史男委員は「消費者保護が重要であるとの点を踏まえた上でも導入に反対」との立場を表明した。またプロ市場化を目指す流れは「大方のコンセンサスは得られている」としながらも「一挙にプロ市場に変化させるわけにはいかない」と、いきなり不招請勧誘禁止を導入することの非現実性を指摘。これまでのプロ・アマ議論に関連して「アマはアマとして、個人は個人として排除しないことがもう一面のコンセンサスではなかったか」と疑問を呈した。
さらに荒井委員は、そもそも不招請勧誘禁止の導入議論をすること自体が「国会の附帯決議に掲げられた検討の要件を満たすものではないと言い切れる」との論点を提示した。
平成18年6月の参議院財政金融委員会では「今後のトラブルが解消していかない場合には、不招請勧誘の禁止の導入について検討すること」との一文を含む『附帯決議』が可決されている。これについて荒井委員は、まず、平成15年と同19年の比較でトラブル件数は5分の1に減少している事実を指摘。また売買枚数は約50%減少しているため、出来高との比率を考えれば「トラブルは80%以上減少しているとみるのが適切」だとした。
一方で、附帯決議がいう「トラブルの解消」は「トラブルが解消しつくされない限りという意味ではない」と指摘。トラブルの減少傾向は明らかで、このため「(不招請勧誘禁止の導入を)検討する状況にない」との流れだ。
これに対し津谷委員は「『解消』は『減少』ではなく完全にゼロになるという意味」とした上で「現在の苦情が以前の7千件から4千件台になっただけで『解消』には程遠い」と反論した。
だが荒井委員は『解消していかない(・・・・)』との表現は「一時点を静的にとらえるのでなく、傾向を指す日本語だ」と再反論。さらに7千件、4千件という国民生活センター発表の数字は、海外先物やまがい取引すべてを含むものであることから「国内公設市場の取引と一緒に議論するのはおかしい」と指摘した。

●ラップ口座とIB制度
今回、各論に上げられたラップ口座とは、一般的には、金融機関が投資家との一任契約に基づいて、投資家に総合的な資産運用と管理を提供する方式のこと。多様化・複雑化が著しい金融商品での資産運用を、投資家は投資の大まかな方針を示すだけで、一定のプログラムに沿った運用を金融機関が代替する仕組みだ。
運用手段には現物株式や債券、金融デリバティブ、投資信託などが考えられる。投資家は個々の取引で発生する手数料を支払うのではなく、預かり資産額に応じた口座管理料と成功報酬を支払う仕組み。国内証券会社が提供する典型的なラップ口座の口座管理料は1%未満から3%程度、成功報酬は20%程度だ。
運用対象を先物取引限定とした場合には、米国の『マネージド・フューチャーズ・アカウント(MFA)』が議論で想定する「いわゆる『ラップ口座』」(産構審資料)に似ているかも知れない。
いずれの場合でも最低投資額は高額に設定されており、国内証券の場合は数千万円以上。MFAは若干低めだがそれでも250万円相当以上、高いものは5千万円、1億円というものも珍しくない。
現行の商品取引所法は商品取引員の一任勘定取引を禁じている。また商品ファンド法で一任運用が認められている商品投資顧問業者(CTA)は、顧客から金銭の預託を受けることができないようになっている。またCTAに運用を委託する場合、個人投資家は最低純資産額要件が3億円と定められているため、実質的にプロの一任運用から締め出されている格好だ。
一方、前回も若干話題に上った「商品取引仲介業(イントロデューシング・ブローカー=IB)」は商品取引員とは別に、顧客からの委託の媒介をビジネスとする制度。主務省は登録の参入規制、取引員と同様の行為規制など「悪質な外務員がIBとならない」ための要件、さらにIBに業務を委託する取引員がIBの違法行為に一定の責任を有することを前提に、@商品市場への多様なアクセス確保、A当業者等のヘッジ機能利用促進――といった観点から制度創設を論点とした。

●個人投資家の資産運用ニーズに対応しきれない現行制度
こうした「いわゆる『ラップ口座』」に関して津谷委員は「個人を勧誘できる形での一任勘定取引とラップ口座導入には反対」との考えを強い口調で訴えた。同委員によれば、取引の一任には「強い信頼関係」が必要で、取引員と個人投資家の間には「一任を可能にするほどの信頼関係はない」という。また業界関係者による経営環境悪化の説明をとらえ、「経営が悪化している企業に資金を一任することが適当とは到底思えない」と指摘。さらに「一任勘定取引やIB制度の導入は拒否感というか嫌悪感すら覚える」とした。
この一連の発言からは、主務省が提示した「いわゆるラップ口座」と津谷委員がイメージするラップ口座には明らかなかい離があることがわかる。主務省は「手数料獲得目的の売買を排し(略)商品取引員がCTAを兼業すること」など「一定の弊害防止策を前提とする解禁」を論点として提示しているが、津谷委員にとってラップ口座はすなわち無条件の一任取引で、それゆえに手数料稼ぎの免罪符になると映っているようだ。
ところが大河内委員は、資産運用は「素人にとっては“さっぱり”わからない難しいもの」とした上で「本当のプロの方に委託するしかない」としている。この発言をそのまま解釈すれば業界にとってのフォローだが、同委員の立場を斟酌すると、商品取引員が運営主体となるIB制度やラップ口座は“別物”と認識されている可能性がある。
これに対して商品先物業界側は加藤雅一委員(日本商品先物振興協会会長)がラップ口座に関して「ぜひ導入を」と要請。個人の純資産要件を3億円とする現在の制度では「個人投資家の資産運用ニーズに対応しきれていない」と説明すると同時に「売買が頻繁になっても収益が上がらない形なので問題は起こらない」と消費者側委員の懸念を打ち消す発言をした。またIB制度は、市場参加者層の拡大と販売チャネル多様化による(当業者の)ヘッジ利用機会増大の観点から「ぜひ必要」と訴えた。
南學政明委員(東京工業品取引所理事長)はIBが商品先物市場利用者に対しての情報提供者として位置づけられること、戦後最大の転換期にある商品先物業界における商品取引員の業態転換の受け皿として極めて有効――との理由から「制度を導入すべき」とした。
マーケットユーザーの立場からは住友商事理事金融事業本部長の高井裕之委員がラップ口座の議論に関連して、投資家のポートフォリオ全体を分析した上で「オルタナティブ投資であるコモディティーを10%程度組み入れてはどうかとサジェスチョン(提案)できる販売員を育てることが重要」と示唆した。

●プロ市場化への覚悟とリスク
 一連の議論の終盤に、学識経験者の池尾和人委員(慶応義塾大学経済学部教授)が商品先物市場のプロ市場化は商品取引員を含む市場関係者の「覚悟が問われている」との意見を述べた。プロ市場化がコンセンサスなら「こうした議論(不招請勧誘禁止の導入是非論など)にエネルギーを使っていること自体が理解しがたい」とし、「一般個人を勧誘する暇があったらそのエネルギーをプロ市場化に向けるのが筋」との考えを示した。
 さらに池尾委員は、商品先物業界は平成16年商取法改正前の議論で「対面個人営業に依存度が高いビジネスモデルからの転換を謳っている」と指摘。今後の「規制がどうなるかは重要な問題ではなく(略)不招請勧誘の禁止規定があろうがなかろうが、個人への勧誘に大きなエネルギーを割く業者がいること自体が矛盾した話になる」とした。
 これを受けて久野喜夫委員(FIAジャパン理事)は、株式取引口座を持つ日本の個人投資家で信用取引が可能なのは8〜10%程度で、米国の先物市場に占める個人の割合も同程度かより少ないと説明。プロ市場化すれば日本の商品先物市場も個人投資家の割合は同じようになる可能性は大いにあるとし、「プロ化の覚悟とはそういうもの」とした。
 高井委員は、池尾委員の意見は「正論であるがゆえに反論できない」と認めながらも「過去何年間の議論で商品先物業界を良くしていこうと動きがありその効果は出ている」と述べる一方で、東工取が来年5月には海外の先端投資家も受け入れられるシステムとルールを構築していると説明。そうした中で不招請勧誘禁止を導入してしまうと「マーケットがなくなってしまうリスクが非常に高い」と警戒感をにじませた。
次回の会議は10月29日の予定。

(文責:先物協会事務局)


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