JCFIA速報

2008.11.17 第7回産構審商取分科会、商品取引所の各種制限緩和でおおむね一致

OTCクリアリング提供や新規上場手続き簡素化など
 
 
 経済産業省と農林水産省は11月12日に今年第7回目となる産業構造審議会商品取引所分科会(分科会長=尾崎安央早稲田大学大学院法務研究科教授)を開催、「商品市場の利便性向上」などをテーマに話し合った。ポイントは世界的に激化している取引所間競争への対応だ。いま世界では、マクロ的には国境を越えた取引所の合併やグループ化によるシナジー(相乗)効果の追求が、個々の取引所に着眼すると業務の多角化による収益構造の強化が生じている。その結果として市場利用者の利便性拡大と経営基盤の強化が図られているが、国内商品取引所には法律で厳しい制約が課されており、世界の動きから取り残されている現実がある。それは出来高の格差という目に見える形でも如実に現れているが、日本は自国市場を維持するためにも、世界からの遅れを一刻も早く取り戻す必要がある。こうした観点から@商品取引所の業務制限、A株式会社商品取引所の議決権保有制限、B上場商品の範囲、C商品取引所の会員資格付与、D取引証拠金の銀行保証による充当――などの問題点が洗い出され、参加委員の意見はいずれも規制緩和の方向で一致した。
 
 
 ● OTCクリアリングは不可欠
 商品取引所の業務制限の緩和では、具体的にOTCクリアリングが視野に入っている。OTCクリアリングは、商品取引所の清算機能を、OTC(店頭)取引業者間の取引清算に提供するもの。
 OTC取引は近年、その契約内容の柔軟性を大きな理由として、取引所取引を上回る契約残高を積み上げている。しかしOTC取引は取引所取引とは異なり、取引者間にデフォルト・リスクの緩衝材となるべき清算機関が存在しない。このため取引者間でひとたび互いの信用リスクを許容できなくなる事態が起きると取引は滞ってしまう。世界的には今回のグローバル金融危機を契機として関係者間でOTCクリアリングの必要性が強く認識されている。OTC業者は信用リスクをヘッジするために「お互いOTCで取引しながら、それを取引所のクリアリングにかけることがブームになっていて、取引所はそのことで利益を享受している」(高井裕之委員:住友商事株式会社理事、金融事業本部本部長)という。
 しかし、その“ブーム”が向かう先は国内にはない。理由は国内の商品取引所の業務が商品取引所法で商品市場の開設とその付帯業務に限定されていることだ。このため国内商品取引所はOTC市場に清算を提供できない。そこでOTC取引への清算業務提供も可能となるよう、業務制限を緩和してはどうかというのが議論の趣旨だ。
 国内商品取引所でOTCクリアリングが可能になれば市場利用者の利便性向上と同時に取引所の収益力向上が見込まれ、それは競争力強化につながる。東工取理事長の南學政明委員は、現行法で規定されている付帯業務でOTCクリアリングが「読めないならぜひ法的手当てを」と訴える。
 つい先ごろ東工取の会員となった新日本石油常務の平井茂雄委員も「先物市場とOTC市場のリンケージ」の面から積極的な推進を要望。モルガン・スタンレー証券会長の福田眞委員は「OTC市場の透明度向上で公共の利益に資する」との観点から「サポートしたい」と述べた。
 ただ「おおいに賛成」としながらも、OTCクリアリングをOTC取引規制緩和の前提とすることへの危惧を表明したのがカーギルジャパン穀物油脂本部穀物グループ統括部長の佐藤広宣委員だ。OTC取引の規制緩和は、前回第6回(10月29日)の分科会で、いまは当業者のヘッジ目的に限定のOTC取引を投資家へも解禁することなどが話し合われている。佐藤委員の発言はOTCクリアリングが規制緩和の条件とされることへの不安を映したもので、仮にそうなった場合には「テイラーメイドで顧客のニーズに合わせた商品設計ができなくなる」と注意を促した。
 FIAジャパン理事の久野喜夫委員は、実際に業務を提供する清算機関の機能強化の必要性を指摘した。同委員によれば、OTCクリアリングのユーザーは清算機関の信用度をチェックしている。ポイントは財務基盤、種々のリスク管理システム、清算会員の構成など。OTCクリアリングは重要なことだが、これらの条件を満たせないと「危うい面が出てくる」とくぎを刺した。
 
 ● 排出権、石油、ガス、電力、天候はパッケージ
  上場商品については、温室効果ガスの排出量(権)など具体的な商品に関連して、商取法で規定されている上場適格商品の範囲と、そもそも商品上場の自由度をより高めるべきとする2つの問題が話し合われた。
  現行の商取法で上場可能とされているのは、主として一次産品とその価格で構成する指数。このため世界的な環境意識の高まりと工業立国というわが国の性格などを反映して取引ニーズが高まっている排出量取引の上場は困難とされてきた。
  しかし今年からは、すでに京都議定書の温室効果ガス削減の第一拘束期間に入っており「われわれ商社はOTCで排出権をやり取りしている」(高井委員)実態がある。そうした取引の背景にあるのは「投機や投資ではなく、実際にエネルギーを排出している企業が排出ガス枠を買わざるを得ない状況」だ。すなわち国内には潜在的なヘッジニーズが「たくさんある」ことになる。
  南學委員は排出権取引を「わが国の生産・流通活動に直結する重要な産業インフラ」と位置づけた上で、同取引は「エネルギー市場と密接に関連している」ことから上場可能となるよう検討を求めた。高井委員は「排出権、電力、石油、天然ガス、天候デリバティブはワンセット」であるため、これらの商品を「パッケージで工業品として扱ってほしい」と要望した。パッケージに天候デリバティブが含まれているのは、電力会社もガス会社も気温の高下で需要が変動し、電力の原料となる天然ガスの需給調整が必要になるためだ。
 
 ● 商品の上場権限を取引所に
  新規商品上場ではまた、手続きの簡素化と商品取引所の裁量権拡大を推す声が相次いだ。
 まず東京穀物商品取引所理事長の渡辺好明委員は、かねてより「市場振興の基本中の基本は上場商品の自由度にあると主張してきた」とした上で現在、主務大臣の認可を必要とする新規上場は「届出制にすべき」との考えを表明。「百歩譲って自動認可として最悪の時だけ(主務大臣が)介入する制度」を提唱した。この考えを支えているのは「市場振興こそが(商品先物市場の)産業インフラとしての機能を一層発揮させることになる」との信念だ。
  また渡辺委員は試験上場制度に触れ「徹底的に理念に立ち返った」制度運用をと主張。近年は新商品の上場と市場の創設がセットとなり、それが上場までの手続きを煩雑化させているとの指摘があるが、そうした方式は単品取引所が多数あった時代の名残りだと説明。「自動的な商品上場を可能にする方向を考えるなら、既存市場に新規商品の追加を可能にすることが(あるべき)道だ」と述べた。
  日本商品先物振興協会会長の加藤雅一委員は、市場のプロ化推進の観点から「上場商品の品ぞろえの強化は重要」だと説明した。また、特に東工取の株式会社化以降には、上場手続きの簡素化なしには「とてもグローバル・スタンダードには対応できない」とその重要性に理解を求めた。
  競争力強化とのリンクでは、新規商品の上場に限定せず、より広い視点から商品取引所の制限緩和を求める意見も出た。南學委員は、国際的な取引所間競争に打ち勝つためには「スピード感をもった取引所運営が重要」だと指摘。商取法が定める商品取引所の定款記載事項のうち、例えば、上場商品等について総会決議を必要としない業務規程事項に改めること、また業務規程事項のうち、取引時間の軽微な変更や限月構成の変更などは主務大臣の認可事項から除外することを求めた。日本商品委託者保護基金理事長の多々良實夫委員も同様の視点から諸規制の見直しが必要とした。
 なお日本弁護士連合会消費者問題対策委員の津谷裕貴委員は、上場手続き簡素化問題で「プロが参加しやすいよう魅力的な商品を増やすこと自体には賛成」としながらも、商品取引員が「アマチュアである一般投資家を誘いたくなるような簡素化ではあってほしくない。簡素化と比例して不招請勧誘禁止の対象と範囲を広げていくべき」と述べている。
  
 ● 流動性供給者としてのプロップ・ハウス
  商品取引所の規制見直しでは、商品取引所法により当業者、商品取引員、および金融機関等の「公正な価格形成に資するもの」に限って認められている取引参加者(会員)資格の取得条件を、取引所の経営判断に委ねる方向で意見が交わされた。具体的にはプロップ・ハウス等のプロトレーダーを想定した条件の緩和である。
  プロップ・ハウス(欧米ではプロップ・ショップ)は、自己取引に特化したトレーダー集団。米国では運営者がトレーダーに取引設備と教育、投資資本を提供するのが一般的で、多くの場合トレーダーはアルゴリズム取引に代表されるITを背景とした先進的な取引モデルや技術を駆使してきわめて頻繁な売買を繰り返す特徴がある。トレーダーの取引端末はISV(独立系ソフトウエア・ベンダー)を通じて、世界中の取引所につながっている。これと似た性格のトレーダー集団に「トレーディング・アーケード」があるが、アーケードのトレーダーは自身の取引口座で取引しており、この点が会社口座で取引するプロップ・ハウスとは大きく異なる。
 いずれにせよプロップ・ハウス等は市場にとって、いまや「ローカルズ」に代わる重要な流動性供給源として位置づけられるようになっている。プロップ・ハウス等が市場参加する道筋をつけることは「わが国の市場の発展のために」(南學委員)きわめて重要な意味合いを持っている。最近では日本でも「プロップ・ハウス事業」を展開する業者が誕生し、現実に東工取の会員資格を取得しているが、これら業者は「店頭商品先物取引業者」等現在の会員たる資格を得た上でのことだ。
 しかし海外から広く市場参加を募るためには現行法の資格制限の考え方を変え、参加を容易化することが必要。このため南學委員は、会員資格要件の非限定と取引所への自主的判断権限の付与、主務大臣の事後チェック化を要望した。
 この意見には高井委員も「たいへん良いこと」と賛同。しかし同委員は、現状では会員資格取得のための純資産額規制クリアに「数億円単位の資本」を持つことが必要だと指摘。できるだけ多くのプロップ・ハウスが会員になれるよう、財務基準のハードルを「1千万円から2千万円程度の資本」で越えられるよう制度改正すべきと述べた。
 これに関連して久野委員は清算参加者と市場参加者の財産要件を明確に分けるべきと指摘。CMEグループでは清算参加者の保証を条件に、電子市場へのアクセス権は低く設定している例を紹介した。
 プロップ・ハウス等の議論とは直接関係ないが、市場参加者の利便性向上の観点からは、取引証拠金の銀行保証による預託を可能とするよう求める声が複数の委員から上がった。穀物メジャーに所属する佐藤委員は同制度ができれば「われわれ実需家や当業者にとってはありがたいこと」と述べた。
 
 ● 外国取引所との連携を可能に
  商品取引所経営の効率化と国内外の取引所との連携を可能とする観点からは、持ち株会社を含む株式会社商品取引所の株式(議決権)保有制限も問題が提起された。これはこれまでの商取法ではまったく触れられてこなかった問題。現実に海外では大がかりな合従連衡がいまなお繰り返されている。こうした事実を踏まえ、あらゆる想定に基づく法整備をしておかないと「いざそうした方向に舵を切った場合、法律が邪魔してしまう」ことを回避することが目的だ。具体的には株式会社商品取引所の議決権保有制限「5%」を見直すもので、事務局が用意した「たたき台」では、商品取引所持ち株会社であれば、国内外を問わず50%以上(取引所本体の保有は50%未満)の保有を可能としている。
  これについて高井委員は「国内外の商品先物取引所がM&A戦略として日本の商品取引所を保有できるところまで踏み込んでいる点は非常に評価できる」と指摘した上で、企業の株式を取引対象としている証券取引所と異なり、商品取引所は商品のデリバティブが対象であるため国際的な広がりがあると説明。海外では国籍を問わずにM&Aができるのが当たり前で、今後はアジアの取引所が欧米の巨大先物取引所グループの「ターゲットになる可能性がある」とした。その際、商品取引所の「自由な行動を阻害しないことは良いこと」とだと述べた。
  またこれに関連した案件として商品取引所と金融商品取引所の相互乗り入れについて主務省は、取引所にとっての経営基盤強化の観点、また取引参加者が「単一の取引所ないしグループで多様な資金運用を行いうる利便性」の観点から制度整備をすべき意義があると指摘。考えられる形式として@商品取引所が金融商品取引所を子会社として保有する場合(子会社方式)、A商品取引所の持ち株会社が子会社として金融商品取引所を保有する場合(グループ会社方式)、B商品取引所が兼業業務として金融商品市場を開設する場合(兼業業務方式)――などのパターンに応じた制度整備をする必要があるのではないかと問いかけたが、特段の異論は出されなかった。
  次回、第8回の産業構造審議会商品取引所分科会は11月27日に開催される。
  (文責:先物協会事務局)


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