JCFIA速報

2008.12.26 第9回産構審商取分科会 IBビジネスの骨格明らかに

農産物OTCは解禁の方向
 
 
 経済産業省と農林水産省は12月11日に今年第9回目となる産業構造審議会商品取引所分科会(分科会長=尾崎安央早稲田大学大学院法務研究科教授)を開催、これまでの審議結果をとりまとめた報告書(案)について意見が交わされた。同報告書案では、商品先物取引仲介業(IB)のより具体的な姿が明らかとなった。商品取引所法による国内、海外、店頭(OTC)商品先物取引の一体規制を前提に、IBは商品取引員からの委託を受けてそれらすべての取引に係る契約・注文を仲介(媒介業務)することができるようになる方向だが、トラブル防止の観点から商品取引員と同様の行為規制を課すとともに、法人IBの外務員には商品取引員の外務員と同等の規制を設ける考えが示された。また分科会では議論されていないが、信頼性向上の観点からADR促進法(*)の認証事業者の活用を検討していくことが盛り込まれた。このほかOTC取引に関しては農産物OTC取引の解禁の是非をめぐり意見が交錯した。主務省は国内取引所の非上場商品のOTC取引が規制されていない現状を踏まえ、それも含めて許可制の対象とする考えを示したが、これに対して取引所代表委員は取引所取引の流動性への影響を懸念して慎重な姿勢を求めた。
*裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律

● 国内経済と産業の強化に向けて
 今回の商品取引所法改正議論が従来と異なるのは、主眼を日本国としての経済競争力強化に据え、そのツールとしての商品先物市場の変革が提唱されていること。世界経済のダイナミックな構造変化の中でわが国の経済・産業が今後も世界に対する優位性を維持していくためには、商品先物取引が有する価格発見機能やリスク管理提供機能などが不可欠というわけだ。
 しかし、国内商品先物市場の出来高はここ数年にわたり低迷を続けており、結果として生じた流動性不足で、経済・産業界から求められる機能の発現が難しくなっている。
とりわけリスク管理機能に着目した場合、事業者は国内商品先物取引にとどまらず海外商品先物・オプション取引や店頭商品先物取 引を利用することで一層効果を高められると考えられる。ところがこれら取引は、取引所相場を使った当業者との店頭取引など一部の取引以外は法で適正に位置付けられておらず、事業者にとって使い勝手のよい、実効性のあるリスク管理プログラムはきわめて限定的となっている。さらにこの「野放し」状態は悪質業者の跋扈を許し、個人委託者のトラブル増大をも招いている。
 こうした点を踏まえ、分科会は事業者や一般投資家がヘッジで使いやすいオーダーメイドの取引や資産運用などで店頭商品先物取引や海外商品先物取引を利用できるよう、また「トラブルのない市場」となるよう、商取法の下での「継ぎ目のない」横断的規制を提案している。具体的には、取扱い業者を把握することで効果的な行政監督が及ぶよう参入規制(許可制。一定の大規模事業者を相手方とする店頭商品先物取引は届出制)するほか、現行商品取引所法並みの行為規制が適用される見通しだ。こうした法整備が図られることによって、今後、悪質業者は締め出され、法の許可を受けた者のみが国内・海先(オプション含む)・店頭商品先物取引の受託業務を一体的に営むことが可能となる。現在の商品取引員にとっては、現行と変わらない規制条件で新たなビジネスへの展望が開けてくると考えられる。

● 農産物OTCは解禁すべきか
 今回のとりまとめでは、ヘッジや資産運用での店頭商品先物取引の存在意義が認められた形ではあるが、その価格形成における役割については否定するかのような記述がされていたため、質疑応答の冒頭、池尾和人委員(慶応義塾大学経済学部教授)から「絶対に容認できない」との強硬な意見が提起された。
 池尾委員が指摘したのは「商品の価格形成が行われる場については、原則として、引き続き、厳格な市場管理が確保される取引所に限られる必要があり、店頭商品先物取引によって商品の価格形成が行われないような制度設計することが適切である」とするくだり。同委員は「価格統制を引き続き継続したいとの思いが透けて見える」と指弾したうえで、「公正かつ公平な価格形成が行われるよう制度設計する」との文章への変更を求め、尾崎分科会長も承認した。
 また先物市場とOTC市場の関係を巡って、東京穀物商品取引所理事長の渡辺好明委員は農産物OTC解禁に従来通りの慎重な扱いを求めたが、主務省は解禁の姿勢を貫いた。
国内では経産物資ではOTC取引が認められているが、農産物については現在まで一貫して容認されてこなかった。農産品は「一般的に価格弾力性が低い」ため取引所外の農産物先物取引には「慎重な取り扱い」が採られてきたためだ。
渡辺委員の危惧は、国内未上場の農産物がOTC取引で解禁された場合には、OTC業者は国内にカバー(ヘッジ)先がないため海外市場を使う必要が生じ、結果として国内市場の流動性がなくなってしまうというもの。こうした観点から@農産物OTCに何らかの制限を課すのか、A取引所取引の上場自由化なしにOTC解禁を容認するのか、B農産物のOTC取引が活発化した場合にはそれとリンクして商品取引所への上場も柔軟に認めるのか――と質問した。
 これに対して大山監理官は、現在、取引所に未上場の商品は、海外市場の上場商品を含めて法律の対象外であるとの見解を述べ、そうした中で農産物OTC取引にも許可制を導入することで「実態を把握し適切な監督ができるようにする」と回答。また現状でも非上場商品のOTC取引ができないかといえば「必ずしもそうではない」と述べた。さらに取引所への上場認可は、OTC商品の取扱いとは「自ずと異なる」とし、政策との整合性もあると答えた。
 この返答を聞いた渡辺委員は、「コメも小麦も畜産物もOTC取引を認めるのか」と重ねて質問。そうした場合には「(国内)取引所は後手に回る」と危機感をあらわにしたが、大山監理官は「基本的にはそうなろうかと思う」と答えた。
一方、市場利用者の立場にある穀物メジャーの佐藤委員は一連のやり取りを受け、農産物は価格弾力性の制約があり価格変動率が高い特徴があるからこそ「ヘッジニーズにテーラーメイドで対応できるOTC取引の経済的意義が発揮される」と指摘。「農産物だからこそOTC取引を奨めるべき」との意見を述べた。
 さらに佐藤委員は当分科会で交わされた議論を総括的にとらえ、事業者が使いやすい市場を構築する際の「主体は商品取引員」だとした。同委員は、本来的に商品取引員には先物市場のメカニズムや商品知識の専門性に加え、国際経済動向の情報提供などでも高度な能力が求められているはずと指摘。そうした「本当のプロ」でなければ当業者のヘッジニーズを掘り起こし、それに適切に対応できないと述べた。

● 新たな市場アクセス・チャネルへの期待
 今回、その骨格が示された「商品先物取引仲介業」、いわゆるIBは商品取引員との契約に基づいて委託者の契約や注文を商品取引員に仲介する専門業者の位置づけ。商品取引員の減少が進み事業者等の商品先物市場への円滑なアクセスが困難になっていく中、IBは重要なアクセス・チャネルになると期待される。
 だがIB制度の導入には慎重な意見もある。津谷裕貴委員(日本弁護士連合会消費者問題対策委員会委員)は、悪質な海先業者やOTC業者がIBの登録を受けることで、仲介業として法で認められた存在になることへの危惧を表明する。このため、@IBはプロ化推進を目的とし一般委託者の勧誘は不可とすべき、A海外市場への直接つなぐこともできないことにすべき、B法人IB社員は取引員外務員と同等の資格取得を義務づける、C過去に問題を起こした海先業者や外務員は登録のハードルを引き上げる――などを提案。日本商品先物振興協会会長の加藤雅一委員は@を除くすべてに同意した。
 これに関して経済産業省の小山智商務課長は「悪質業者を登録させないのは当然」とした上でそうした業者がクリアできない登録条件としたいと回答。悪質業者の従業員の位置づけも考えると述べた。また海外へ直接つなぐことに関しては、IBは商品取引員からの委託を受けてそこに仲介する制度設計としているためその問題はクリアできるとした。

● 日商協はADR認証取得を努力
 ADR(裁判外紛争解決手続き)は、さまざまな紛争について、裁判ではなく当事者に「第三者」が加わって解決を図るシステム。簡単な申立ての手続きや時間などの柔軟性、解決にかかる時間の短縮、専門的知識を有する者による解決補助、非公開性などを特徴として近年、利用が進んでいる。その際の「第三者」がADR機関と呼ばれるが、平成19年4月に施行されたADR促進法に基づいて民間ADR機関は法務大臣の認証を受けられるようになっている。
 現在、商品先物取引関連の紛争は、自主規制機関である日商協があっせん・調停業務を通して解決の中核的役割を果たしているが、商品先物取引に対するより一層の信頼性向上の観点から、日商協がADR促進法の認証事業者としてその業務を実施していくことや、日商協以外の他の認証事業者によるあっせん・調停に商品取引員が協力していくこと等について検討していくことが提案された。
 これに関して日商協会長の荒井史男委員は、時間的な言及は避けながらも日商協自身については認証を取得する方向で努力していきたい。ただ、「協力」については、いろいろなところが協力し合って紛争を解決していくのは当然であり、そうしていくべきであると思うが、協力の中身は難しい面がある。そのため慎重な対応が必要との考えを述べた。
  (文責:先物協会事務局)


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