価格リスクをヘッジする
1)航空業界の燃料費ヘッジ戦略について
2)米国ガソリンスタンド経営に先物システムを活用
3)リスク緩和のための商品ヘッジ

 原油価格が上昇している。航空会社を始め各方面に影響を与えている。
米国航空業界大手デルタ、ノースウエストが経営危機に陥り、9月14日連邦破産法11条の適用申請を行なった。ジェット燃料費の急騰が経営に致命的打撃を与えたためである。しかし一方で燃料費の急騰にもかかわらず収益を伸ばしている会社もある。
何故にこの差が生まれるのか。
 リチャード・コブ、アレックス・ウォルフの両氏が「ジェット燃料費ヘッジ戦略:航空会社の選択肢と業界調査」と題する論文を発表した。この論文は2004Chookazian賞を受賞した。この論文から航空会社が明暗を分けた理由を探ってみたい。
更に上下する商品についてヘッジの必要性を説いた記事をアジアン・ウォール・ストリート・ジャーナル(2005年6月23日付)、フィナンシャル・タイムズ(10月18日付)の二紙から紹介したい。

1)航空業界の燃料費ヘッジ戦略について

ヘッジ戦略の有無が明暗:
 ジェット燃料費は近年上昇をたどっている。しかし航空産業はジェット燃料費の高騰にについてヘッジ戦略を取り入れていない産業だ。結論を急げば、デリバティブ(金融商品)を活用して燃料費のヘッジを行なうことは競争上優位になる。その結果、ヘッジ戦略を使っているところは成功し、使っていないところは経営危機に陥ったのである。
 
ヘッジの方法:
・店頭(OTC)デリバティブ
 航空各社が使う最も多い手法はオプション取引とスワップだ。オーダー・メードできるというので、公設先物市場よりOTCを選択するという。OTCは航空会社と投資銀行間で行なわれる。これにより、サウスウエスト、ジェットブルーは成功している。
・公設先物市場
 ジェット燃料先物は米国先物市場には上場されてない。そのため上場されている原油、暖房油先物を利用してヘッジする。これらはジェット燃料より原商品に基づいて値が動くので、ジェット燃料と完全な相関を示さない場合がある。いわゆるベーシス・リスクを生じる可能性があるので気をつける必要がある。東京工業品取引所には灯油先物が上場されている。灯油はジェット燃料の主成分であり、相関性が高い。克服すべき問題もあるが、これはジェット燃料購入に当り最高のヘッジ手段である。
・ヘッジしないという戦略
 米国のフルサービスを提供する航空会社にヘッジはしない、と考える人が多いという。反対にサウスウエストやジェットブルーなどの低コスト戦略の会社はヘッジ戦略を使っている。そうすることにより財務面で成功している。ヘッジ戦略を使わない会社(デルタ、ノースウエスト)では倒産の危機に晒されている。対照的である。そしてヘッジしている航空会社の株価にはヘッジング・プレミアムがついている。航空会社はヘッジすることで将来の支出や収益をより的確に予測することができるようになり、その結果、経営について市場での信頼を高めることができるのである。

ヘッジ戦略で成功した航空会社:
 燃料費は米国国内航空会社にとって人件費に次ぎ2番目に大きな支出項目だ。一般的に航空会社は燃料費が上がったからといってそれを運賃へ転嫁できない。2001年から2003年にかけジェット燃料費は25.9%の上昇であった。しかし運賃は平均0.1%(運行可能座席のマイル当りの収入により算出)の低下を見た。また、2004年2月から5月までの間、いくつかの航空会社が、燃料費上昇分を相殺するために運賃の値上げや追加料金を請求しようとしたが、ライバル会社が値上げを行なわなかった。当然のことながら、この試みは失敗に終わった。
 燃料費の上昇が、ヘッジしている会社としていない会社の収益率に与えた影響の違いは2004年に鮮明に表れ、そして現在に至っている。燃料費高騰によりヘッジを行なっていない会社の推定収益が下がったのである。2003年最大の燃料ヘッジを行なっている会社(サウスウエスト、ジェットブルー、デルタ:2004年以降燃料ヘッジを行なわなく、2005年9月14日連邦破産法運用申請)が支払った燃料費はその年のジェット燃料価格の平均値と同じか下回る額となった。サウスウエストでは、もし燃料費ヘッジを行なっていなければ社の2004年の第一四半期の黒字2600万ドルは、800万ドルの赤字になったであろうとのことだ。ヘッジ方法としてサウスウエストでは暖房油先物、原油先物、OTCデリバティブを利用している。さらに、これらヘッジ戦略を使い2009年分までのジェット燃料を手当てしている。このように最も成功を収めている航空会社はヘッジ戦略を採用し、一方破産間際の会社はジェット燃料費高騰の直撃を受ける形で破産に陥っている。ヘッジをするにはヘッジ料がかかるがヘッジすることによる利益のほうがコストをはるかに上回るのである。



2)米国のガソリンスタンド経営に先物システム活用
 
 ガソリンスタンド経営は混迷状況にある。大きな理由は価格の上下が激しいからだ。パパ・ママの小さな独立系からエクソン石油の会社所有の大手にいたるまで、最近の利益は少なくなっている。
ウォルト・ドウエル氏は独立系のガソリンスタンドの経営者だ。彼や彼と同じ独立系の経営者は先物取引を利用して価格を安定させ、利益を増やしたいと思っている。
昨冬、ドウエル氏と三人の兄弟は彼らが扱うガソリンの25%分を割りのよい価格で拾えた。これで100万ドル以上出費を抑えることになった。
 商品市場に足を突っ込むのは最初変な気がしたものです、と彼は言う。先物市場を利用するガソリンスタンドのオーナーの数は増えています。業界のコンサルタントによると今やガソリンスタンドオーナーの約20%が先物市場を使っているといいます。20年前にはほとんどゼロでした。この数字にはシェブロン、エクソンなどの大手は入っていません。彼らは既に何十年にも渡り先物市場を積極的に利用している。現在、大手石油会社は米国ガソリンスタンド16万9000店のうち5%を所有し、60%が大手のガソリンを扱っているが独立している。残りが無印スタンド。業界はここ数年縮小状態にある。94年に比較して17%の縮小だという。
 ほとんどの場合、価格が上下したとき小売値段は、一律になるように調整される。そこでスタンドは単純に価格を消費者に転嫁するのである。
 ドウエル家は外部から燃料トレーダーを雇った。2002年、彼の取引が矢継ぎ早で、もうからなかったのでやめさせた。次の担当者は2004年の春からNYMEXでガソリンの先物を購入し始めた。一月30枚の取引。この枚数はドウエル家の会社(ネラ石油株式会社)が一日に販売するガソリンの量の1/4をまかなう量である。更に担当者はスワップ取引を行なう。もしガソリンの価格上がると、先物及びスワップ取引が価値のあるものになる。下がった場合は先物及びスワップ契約は損になるが、会社の通常の業務での利益によって相殺される。
 2005年3月中旬、ネラ石油は利益を確定するため建玉全てを仕切った。彼らの思惑は短期的には成功した。というのも4月に原油価格が50ドル以下になったのである。しかし、建玉を仕切って、ここからもし値段が上昇したら困るのでヘッジとしてオプションを購入したのである。これによりもし価格が購入以下で推移すればオプションは無価値で終了する。値段が上昇したらネラ石油はガソリンを市場価格以下で手当てできるのである。

3)リスク緩和のための商品ヘッジ

 商品価格の上昇で世界中の多くの産業会社は動揺した。しかしBPB(英国石膏ボード会社)は英国内で自社が使うエネルギー費用をヘッジし、やがてこれを世界中に広げ、そしてヘッジの対象を他の製品に広げていきたいという。
多くの英国の会社は、予期せぬ金利や通貨の振れから商売を守る専門家になっている。そして銀行は、成熟し、流動的な市場でスワップやデリバティブのような広範な金融方法を利用するように助力している。
2年前、ACT(Association of Corporate Treasurers)が実施した調査によると、商品リスクは金融問題の中でも最も関心の低いものであった。しかし、ACTとアーンスト&ヤング(会計会社)による今年の調査では、商品リスクに晒されている英国会社の3/4が商品のリスクをヘッジしている。この数値昨年は半分を少し超えていた。また昨年では43%であったが、今年80%の会社の経理がリスクコントロールに成功している。このように価格リスクに対する考えが2004年から大きく転換しているのである。ただヘッジしたくても対象商品の市場がない場合があり、ある企業などは取引所と協力して市場を作る努力をしたが実を結んでない。しかし、いろいろな障害があったとしても市場作りの意欲をそぐことはない、とある投資銀行家はいう。というのもハリケーン・リタやカトリーナなどの事件が更に起きたり、またこの2,3年の石油価格が上昇したことを見るだけでいいのである。

(文責:玉手 良明)

   

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