

2.絶妙のタイミング
3.産地視察ツアー
5.ヘッジ売り
7.山崎の決断
6.ある焙煎業者の要望

ひと通り話が終わったところで、斉藤が切り出した。
「現状で積極的に東穀取の利用を考える会社は思いつかないなあ」
「そうですか。しかし東穀取の認証作業に関わっている焙煎業者さんは多くいらっしゃいますから、先物市場を理解されている焙煎業者さんは少なくありませんよね」
「そういうことなら、村瀬珈琲の山崎さんが東穀取の検査員をやっておられる。私も良く知っているが、東穀取にも興味をお持ちのようだ。君の期待通りになるとは限らんが、紹介だけならしてあげよう」
「ぜひ、お願いします」
斉藤はひととおりを説明し、中でも先物市場の利便性と、市場を利用する有益性を強調した。山崎はひととおり黙って聞いた後、ひと段落したところを見計らって例の大阪弁で切り出した。

「それほど少ないものでしょうか」
「私自身は東穀取の値動きも追っとります。アラビカ先物が現物価格より安く納会する傾向があることもよう知ってます」
「それでも受け方として参加されないのはどのような理由でしょうか」
「ベストコーヒーさんのようにインスタントコーヒーのメ−カーで、シックス・ホースメン(中米六カ国)産やったらどこでもよく、かつ大量に消費するようなら、東穀取を定期的に利用する価値はあるでっしゃろ。でも、うちらのようなところでは、最低250袋(*注10)を同一オリジンで受けて、しかもそのオリジンが受けるまで分からないというのではリスクが大き過ぎますわ」
「それでは仮に50袋に単位を落としたらいかがでしょうか」
「それは受けやすくはなりまっけど、仮にそうなれば、今度は証明書が付かなくなる可能性がおますね。輸入は250袋を最低ロットでやってますんで。一長一短でんな」
「それでは、どうなれば使い勝手が向上するとお考えでしょうか」
「これはよく言うてるんですけど、ニューヨークみたいに認証在庫を発表してほしいんですわ。尾島さんに聞いたら、今の東穀取の認証在庫は推定で5千〜1万袋程度だそうですわ。これぐらいだったら、オリジンが発表されれば、自分とこのブレンドを見ながら受けたいと考える焙煎業者も出てくると思いまっせ」
「なるほど。しかし現状では参加する気にはなれないと…」
「いや現状でも、そちらの方で渡し物のオリジンがあらまし分かるようでしたら、受けてもええとは思うとります」
「そうですか。私は渡し方の商社さんも顧客におりますので、その辺は情報をご提供できると思います」