1.朝一番の内線電話
2.旧友との再会
3.腹案
6.スタートライン
2.旧友との再会
「大豆加工食品の豆腐、みそ、納豆、醤油の4業界団体が値上げで結束」
自分のやってきた仕事に関係した何かがマスコミにこれほど取り上げられた記憶は渋谷にはなかった。
「久しぶりだな、神田。お前ちょっと会わないうちに太ったんじゃないか」
「久しぶりに会うのにいきなり失礼だなぁ。恰幅が良くなったと言ってくれよ、恰幅が良くなったと」
「そうだよ。かなり大変だな。大豆も値上がりがすごいけれど、大豆だけじゃなくて原料全部だよ、値上がりしているのは」
「しかもうちなんか大手じゃないし余計に大変だよ」
「そうだな、お前アメリカが世界最大の大豆の生産国って知っているか」
「初めて知ったよ。それで?」
「そのアメリカは世界最大のとうもろこしの生産国でもあって、国内的には大豆の主産地ととうもろこしの主産地が重なっているんだ。つまり、どちらかの生産を増やせば、どちらかを削らざるを得ないということさ。で、アメリカが国策としてバイオ燃料の生産を積極的に推し進めることになったのは知っての通りだ。バイオ燃料、すなわちエタノールのことだが、米国の農家はその原料となるとうもろこしの作付けを劇的に増やしたんだ。結果、大豆の作付けが減ってしまった。それが大豆価格上昇の最大の要因だろうな。加えて投資ファンドと呼ばれるような大量の資金を保有する大口の投機筋が価格の上昇を見込んで買ってきていることもかなり影響しているな」
「違う、違う。食用油の原料として使っている大豆はもちろん、食品用大豆の供給も海外からの輸入品に依存しているのが実情だよ」
「でもお前そんなこと言ったら、日本の食料全部そうだよ。日本の食料自給率の低さって危機的だよ。何かあって、ある国が自分の国の食料供給を満たせなくなった時、他の国に輸出するか。しないだろ。日本人はそのあたりのことをほとんど気にしていないみたいだけれどおれは心配だな」
「お、すまんすまん。ちょっと考えごとをしていた」
「うちの部の担当常務から直接呼び出されたんだ。今日の朝一番に」
「さっきお前が心配してくれていたようにうちも原料の大豆の価格高騰に苦しんでいるだよ。それで、その原料コストの削減案を出すように言われたんだ」
「実は先物市場をうまく使えばコスト削減につなげられるんじゃないかと思っているんだ」