3.腹案


6.スタートライン

これまで渋谷のいる原料部は商品取引員に口座を設けているだけであったが、大塚常務の説得もあって、その口座を実際に使って社内規程の範囲内で先物取引をすることが許された。

渋谷は年明けの出社も早々に、高田社長に年初の挨拶と礼を伝えるため電話をかけた。
「高田社長、明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします」
「明けましておめでとう。渋谷君」
「高田社長、先日はうちの大塚に助言していただいたようで本当にありがとうございます」
「さて何のことかな」

「以前お話させていただいた先物市場の活用です」
「そう言えばそんな話も聞いていたなあ。それでお仲間になれそうなのかい?」
「おかげさまでなんとかそうなれそうです」
「それは良かった」

「これからもご指導よろしくお願いします」
「指導なんてとんでもない。こちらの方こそ今後ともよろしく頼むよ」

年明け後も指標であるシカゴの大豆先物相場がさらに上昇するなか、付き合いのある輸入商社が原料部へ30%増しの大幅な値上げという厳しい状況を伝えてきた。東京の先物市場から現物を割安で調達したいところではあるものの、東京先物市場は割高になっており、とても買えるような状況ではなかった。


しかし渋谷が東京先物市場を注視していく姿勢に変わりはない。シカゴ先物市場も短期的には買われ過ぎで修正局面となる可能性もある。そうなれば東京先物市場が割高になっていることに対する反動も加わって、大きく下げて逆に割安になる場面もあるのではないかと思った。そういったところがあれば、先物市場を買っていく方針で臨むことにした。

「焦らず行こう。必ずチャンスはやってくる」
渋谷は心のなかで自分にそう言い聞かせた。