

1.中島の決意
6.未来への誓い
3.地金商で現物の手当て
「実は久しぶりに打って出ようと思っているのです。そして今回は国内だけでなく、今の円安を利用してアジア諸国への輸出も考えているものですから多少、量が多くなったのです」
「なるほど」
「少しおこがましい言い方かもしれませんが、新たな仕事を作って、少しでも山梨の職人さんたちに元気になってもらえればとも思っているのです」

荒木は頭を下げた。
中島は素直に答えた。
「私のところも決して順調ではありませんよ。ただ業界の皆さんの話はどこも同じで、厳しいの一点張りですね。でも今年になってからホワイトゴールドの人気に火がついているのはどこも同じみたいです」
「ホワイトゴールドですか。シルバーでは安すぎて、プラチナでは高すぎる。でも見た目はプラチナと同じで価格も手頃だから、という理由でしょうか」
「おっしゃる通りです。嗜好品に近い純粋なプラチナジュエリーは、価格がネックになって売れ行きがよくないらしく、置きたがらないですね。お店の子にも話を聞くと、プラチナリングの価格を見て驚く男性が多いようです。女性ならともかく、普通の男性は貴金属の価格なんて知らないでしょうから」
「私も驚きますよ。昔の値段を知っているだけに、余計です。プラチナに手が出ない気持ち、同じ男として少しわかりますね。これから作ろうとしている中島さんを目の前にして言うのもなんですが」
「かまいませんよ、それが現実なんですから」
「教えて頂きたいのですが、宝飾以外の業界で最近、耳にする話などありますか?」
「そういえば、宝飾とは少し分野が違うのでしょうが、コインの売れ行きが鈍っているそうですね」

「そうみたいです。記念コインは金貨と銀貨が多いのですが、記念コインは昔からのコレクターが多いそうです。1つ、2つと集めていくうちに、全部集めたくなるそうなんです」
「確かにそう言われると全部集めたくなりますよね、普通」
「ですよね。ただ、これまでと同じ価格を維持しようとすると大きさや厚みに問題が出てきて過去の物と比較すると不恰好になるんです」
「なるほど」
「では大きさを同じにすればいいじゃないか、と思われますが、そうするととてもじゃないですが、これまでの価格からは考えられないほど高くなるのですね」
「確かにそうですね。コインもどちらかといえば嗜好品ですから、嗜好品の売れ行きが鈍っているのはどこも同じなのですね。」
「それでは少し待っていてもらえますか。プラチナ900を4キロ、取ってまいりますから」
そう言い残して部屋を出て行った。