2.納会


3.受渡し

大西商事では仕入れ全体の4分の1を先物市場からの現受けでまかなっている。今月も予定通り現受けできるようなので、渡辺はホッとしていた。

「先月、先物市場で買い付けたガソリンを潮見町のタンクから中京の油槽所へ運んでくれ」
渡辺は湯島に指示を出した。
「500キロリットル全部ですか」
「いや200キロリットルだ。64,000円で500キロリットル買い付けた分のうち200キロリットルでいい。それ以上はタンクに入らないだろう」
「了解しました。ローリー10台分なので、数日かかります」

「4台のタンクローリーをうまくやりくりしてくれ」
「はい。ローリーが6台だったころはやりくりも楽だったんですけどね」


大西商事では20キロリットル運べる大型のタンクローリーを4台所有している。中小のスタンドなどへの販売で卸売りの仕事が活発だったときは6台保有していたが、取引先の中小のスタンドの廃業が相次ぎ、2台減らした。

「中小業者への販売量が減ったから仕方がないさ。タンクローリーは1台2,500万円位する上、維持するコストもかかるから、遊ばせておくわけにもいかないよ」


湯島はガソリンスタンドへの中継地点となる自社の油槽所へ、潮見町にある元売りのタンクからタンクローリーでの配送指示を出した。大西商事の油槽所は内陸にあり、バージ(内航タンカー)では運べない。このため、輸送手段はタンクローリーとなる。なお、この油槽所から、各ガソリンスタンドへタンクローリーでガソリンや灯油を運ぶ。

先物市場で先月買い付けた分は渡し手が大手商社であり、潮見町にあるタンクで受渡しがなされる。こちらでタンクまでタンクローリーで取りに行くことになる。受け渡し場所を受け方(買い方)が指定できないのは不便な点だ。また、取りに行くタンクローリーのコストは受け方の負担となる。

「ローリーでの受け取りにも結構コストがかかりますね」
「まったくだ。先物の売買手数料は往復で1枚当たり約2,100円かかる。ローリーの高速代が往復で6,000円、燃料の軽油が1リットルで110円として80リットルだと8,800円かかる」
「運転手の手当ても必要ですね」
「早朝勤務だと、早朝手当てもかかるから25,000円〜30,000円かかるな」
「3万円として、2万リットル(20キロリットル)だとリッター1.5円のコストですね」
「軽油が安い時代なら、ローリーの燃料費も安くついたのにな。この分は製品の販売で何とか吸収しないといけない」

現在は元売りの仕切り価格が1キロリットル当たり、68,000円(ガソリン税53,800円を含めて121,800円)前後となっている。当社が先物市場で買い付けた分は64,000円なのでかなり割安だ。なお、実際にはガソリン税を含めた価格に消費税を加えた127,890円で受渡しが実施される。この価格に加えて運送用のコストがかかるわけだ。

なお、代金については取引を仲介する昭和フューチャーズから取引所に事前に納められている。受渡しが完了すると、渡し方へ代金が支払われる仕組みだ。代金の決済に取引所が介在するというのは、受け方・渡し方の双方にとって安心材料だ。


「今回は原油価格が大きく崩れずにガソリンも灯油も高値を維持していますね」
「業転ではガソリンは68,000円前後、灯油は75,000円前後まで上げているな」
「ガソリンを先月64,000円で買っておいたのは大正解でしたね」
「安く買えて、それが損失にならなかったことで、一安心だよ」
「もし、原油が急落していれば、業転市場で64,000円を下回るような水準まで下げている可能性すらあったわけですからね」

大西商事の場合、先物市場で割安なものを買い付ける買いヘッジはするが、手持ちのガソリンや灯油が高値圏にあるとき値下がりを見込んで売りヘッジするようなことはやらない。売ったあとに下げればいいが、上がると手持ちの現物を渡さなくてはならないので(買い戻しての決済もできるが損をする)、実務上、売りは特に必要はない。あくまでも自社のガソリンスタンドでの利用分を一部買い付けるのが目的だ。