2.納会


7.競争激化


渡辺も西も自社の競合スタンドの価格の動向は気になる。西は毎朝起きると、新聞も読まずに近所のスタンドの価格の看板をチェックしている。とにかく、歩いていても車で走っていても、ガソリンスタンドの看板ばかりが目に付く。

4円の値下げを実施して2週間。渡辺は先日訪れた倉島の店の売り上げ報告をチェックした。

「西社長、値下げ以降はガソリン販売は前年比トントンまで持ち直しました」
「そうか、ガソリンが高値で売れないという中、かなりの健闘だな。顧客はそれだけ価格に敏感なんだな」
「そうですね。灯油は寒波の影響で前年比15%アップです」
「それはありがたい。ただ、気温に左右されやすい灯油販売は“水物”なので油断は禁物だぞ」
「今年は寒波が続いて欲しいな。うちが灯油の安値販売をしていることと、寒波の両方がプラスに左右しているようですね」


倉島から渡辺に電話が入った。
「渡辺課長、うちに対抗して近所のセルフがまた値下げです」
「いくらだ」
「リッター2円です」
「まったく、イタチごっこだな」
「まだ目立った売り上げの減少はないですが、時間の問題かもしれません」
「そうだな。対応策を検討してまた連絡する」


渡辺は社長の西と対応策を協議した。
「競合店が値下げしている以上、販売のマージンが減ってもうちも値下げせざるを得ないだろうな」
「そうですね。やはり値下げするべきでしょう」
「渡辺、値引きしても先方はまた対抗下げしてくるのじゃないのか」
「その可能性はあります」
「うちはセルフじゃないから、先方と同値か、1〜2円高い水準なら、消費者も納得するんじゃないか」
「ええ、ただ油外販売が伸びない現状では、既存顧客は取り込んでおきたいところですね」
「じゃあ、今後は値下げは小出しにやるか」
「とりあえず、1円値下げしますか」
「それでいこう」
「では、倉島君へ連絡します。さっそく明日から対応してもらいます」
「いや、明日からじゃなく今日からだ。俺は明日、新店舗の建設予定地を視察に行ってくる」
「よろしくお願いします」

別の幹線道路に新店舗の建設を検討しており、西はそこへ視察に出向く。大西商事はセルフは運営していなかったが、新店舗はフルサービスとセルフを顧客が選べる“ハイブリッド店舗”にしようと検討している。あまり業界でも例がなく、斬新な試みだ。


「ガソリンスタンドは飲食店などと違い、倒産した店舗を買収して出店するケースは少ないですね。新規に出店すると、既存店舗の買収に比べて投下資金は大きくなりますが、狭くて古い閉鎖店舗など買収してもビジネスとして成り立たないから仕方ありません」
「それにガソリンスタンドは飲食店とは違い、どこでも販売しているものは同じだろ。価格とサービス勝負だからな」
「やはり店舗は大型で清潔、入りやすくて、店員の応対がていねいなら固定客がつきやすいですね」

大西商事では「ていねいな接客」を最重要課題にしている。不快な思いをした客は、よほどの理由がなければ、次回わざわざ同じスタンドを選ぶ理由がない。スタンドはいくらでもあるのだから、他店へ行くだろう。